季節のこと

二十四節気の立秋に寒蝉鳴 -ヒグラシ(蜩)、ツクツクボウシ(つくつく法師)、そしてツクシ(土筆)

2016/09/11

2016年8月11日、暑い盛りだが、暦の上では 「立秋」 も過ぎて秋の始まり。「立春」、「春分」、「夏至」、「立秋」 など季節の節目を表す言葉は、古く中国の季節区分に基づいている。二十四節気(にじゅうしせっき)七十二候(しちじゅうにこう)というが、「立秋」 は二十四節気の一つで13番目の季節区分だ。二十四節気はそれぞれさらに3つずつ分けて 24 x 3 = 72、つまり七十二の候にわけて、これを 「七十二候」 とよぶ。

たとえば、「立秋」 を 「初候」、「次候」、「末候」 に分けるので、これらは第37番目、第38番目、第39番目の 「候」 になる。各 「候」 に固有の名称がつく。

  • 第37候 涼風至(すずかぜ いたる)涼しい風がたち始める
  • 第38候 寒蝉鳴(ひぐらし なく)ヒグラシゼミが鳴く
  • 第39候 蒙霧升降(ふかききり まとう)気温が下がって朝夕に霧が出る

第38候の寒蝉鳴(ひぐらし なく)の 「寒蝉」 は 「かんせん、かんぜみ」 とも読むが、和名としては読むときは 「ひぐらし」 で 「蜩」、「茅蜩」、「秋蜩」、「日暮」、「晩蝉」 とも書く。薄明のときに悲しげに 「カナカナ・・・」 となくので 「カナカナゼミ」 ともよばれる。「ひぐらし」 は日暮れ時に鳴くことからついた和名である。

semi01

しかし、この 「寒蝉」 には少々混乱がある。別種のセミである 「つくつく法師」 を 「寒蝉」 とよぶこともあるようだ。

大槻文彦の『言海』には 「つくつくぼうし」 の項に次のような説明が書かれている。

つくつくぼうし (名) 【鳴ク聲ニ、法師ヲ添エタルカ】古クハ、クツクツボウシ。蝉ノ一種、形、小ク、色黑シ、秋ノ半ヨリ季ニワタリテ、日暮ニ鳴ク、其聲、おおしいつくつくト聞ユ。寒蝉

「つくつく法師」 は晩夏のセミだが、もちろん 「ひぐらし」 とは異なる種である。「つくつく法師」 の鳴き声は、「ツクツクオーシ、ツクツクオーシ」 と聞こえる。その鳴き声が名前の由来であるが、『言海』にもあるように、古くは 「クツクツボウシ」 と呼ばれたようだ。

民俗学者の柳田国男はその著書 「野草雑記」の中で、春に道端に萌え出る土筆(ツクシ)に関して考察を加えている。この本によると、土筆(ツクシ)は日本各地において 「ツクツクホウシ」、「ツクツクボウズ」、「ツクツクボウ」 などと呼ばれていることから、柳田は秋の虫である寒蝉 「つくつく法師」 と同一名称であることに興味を示している。

その 「野草雑記」 の一節を引用しよう。

蝉の声は比較的自由だから、小児がこれを聴いて春の土筆の名を貸したとも考えられるが、実際は寒蝉のツクツクホウシは五百年前の文学に現れ、今日も標準語として認められているのみならず、昔からほぼこれに近い啼声をするものとなっていたのである。こんなついででもないとその記録も遺し得られぬから、退屈凌(しの)ぎにその例を並べて見ると、古い所では『蜻蛉(かげろう)日記』にクツクツボウシ、『散木奇謌集(さんぼくきかしゅう)』にはウツクシヨシと鳴くとある。近世の口碑(こうひ)においては筑紫(つくし)の人旅に死し、その霊化して蝉となってツクシコイシと啼くと、也有(やゆう)の 「百虫賦(ひゃくちゅうふ)」にはあるそうな。・・・・・ (中略) ・・・・・・・寒蝉の哀話からまた移って、土筆を見つける際の呪文のようにまでなったのである。これを要するに多くの言語は、興味がこれを培養して次々に今の形まで成長せしめたので、その久しい前後の伝記を切離し、単なる一時代の横断面のみを以て、その本質を説こうとするは心得違いなことでなければならぬ。  ―― 柳田国男 「野草雑記」(青空文庫)より引用

その姿から坊主の擬人観によって名を得た春の植物 「ツクシ」 の 「ツクツクホウシ」 とその声に擬した蝉の 「ツクツクホウシ」 の関連性について、柳田は上のように記している。

上には引かなかったが、土筆(ツクシ)採りの童詞に 「つくつく法師出やらんか ・・・」 というフレーズがあり、また土地によっては 「つくつくぼんさん何泣くね ・・・」 とも歌われるそうだ。「つくつく法師出やらんか」 は土筆(ツクシ)よ、でてこい」 ということ、また 「つくつくぼんさん何泣くね」 は 「つくつく法師、いったい何で鳴いてるの」 という意味を含んでいるのだろう。

春の 「土筆(ツクシ)」 と秋の蝉 「つくつく法師」がその名称の類似性からイメージが錯綜し童詞のなかに歌い込まれていったのだと考えられる。

柳田も 「つくつく法師」 を寒蝉といっている。実際のところ、本来 「寒蝉」 が 「つくつく法師」を意味するのか 「ひぐらし」 を意味するのかは謎であるが、いずれであってもその鳴き声は夏の終わりを感じさせる。

耳を澄ませると季節の移ろいは虫の音(ね)にも聞こえる。

_________________________________________

スポンサーリンク


スポンサーリンク

-季節のこと