おもいがけないこと

「食事のときに水分をとってはいけない」はデマ、大うそ

本日は、健康、ヘルス、美容系のサイト、ブログで大流行の大うそ-「食事のときに水分をとってはいけない」のお話。

夜、お腹がすいてファミレスに入った。夏休みだから人は少ないかと思いきや、そこはやはりファミレス。その名の通りファミーリーの来るレストランだ。ちょうど夕食時だったこともあって、家族連ればかり。席が空くまで待つこと20分少々。席が空いたようだ。

着席して、チキンとサラダ、それにビールを注文して待つ。隣のテーブルは4人家族、比較的若い夫婦と、お兄ちゃんは小学生3~4年、妹はやたら元気がいい、幼稚園だろう。お父さんは、・・・間違いなくスマホ人間。娘がふざけてちょっと小突いたり、なでなでしたりしても、もくもくとスマホをいじっている。お兄ちゃんはおとなしく母親の横でマンガ本を読んでいる。お隣の料理が来たようだ。ウエイトレスがお皿をテーブルに置くやいなや、元気のいい幼稚園児はフライドポテトに手を伸ばす。「まだ熱いわよ!」と母親に叱られるが、さっと引っつかんで口に入れた。料理がそろったので家族は食べ始める。父親は食事中もスマホを離さない。食事が進んで、妹は水の入ったグラスに手をのばす。「お水はやめなさっていって言ったでしょ!」と母親がグラスを取り上げる。娘は「のど渇いた」と言う。「ごはん中にお水飲むと体に悪いのよ、やめなさい」と母親。「のど渇いた~、お・み・ず~、ちょうだい」と娘。「お家に帰って3時間たったら飲みましょね、今はダメ

私の頭は????マークだらけ。

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子供が食事中に水を欲しがるのは昔から当たり前のこと。食事中に水を飲まない子供なんて見たことない、と思っていたら、その家族、誰一人として水をのまない。お父ちゃんもスマホは離さないけど、ビールも飲まず、スープなど水分は一切なし。なーんのこっちゃ、新手の新興宗教か?と思ったが理解を超えていた。

家に帰ってからグーグルさんに「食事中に水を飲まない」を聞いてみた。そしたら、あるあるある、「食事中の水分摂取ですが、実はダイエットや美容のためにはどうやらとらないのが正解のようです」とか、「食事中に飲み物を摂取すると消化を助ける唾液分泌を弱めることが分かっています。 胃液が薄まって消化に良くないからダメ!」とか、ウソが無数にありました

どれも似たりよったりの内容で、表現や言い回しもそっくり。これはほとんどコピペ増殖したものばかりですな。どこからこんな大うそが大発生したんだろうと思いながら、たどっていくと、どうもこの「食事のときに水分をとってはいけない」というとんでもなくデタラメな話の大本は、米国の女性ライターのサラ・ノヴァク(Sara Novak)らしい。彼女は結構有名なライターで食糧問題や食糧政策、食の安全などを専門にしている。

このサラ・ノヴァクの書いた「食事のときに水分を取るのはやめなさい-本当に」(Stop Drinking Water With Meals--Seriously)という10/04/2011付けのブログ記事のオリジナルはすでに削除されてしまっているが、アーカイブされたものが見つかった。

これはディスカバリーのブログ記事だが、多分ディスカバリーで放映された動画 (Discovery Life Videos) でも同様の主張がなされたのではないかと思うのだが、ディスカバリーの「動画記事」は見つからなかったので参照することはできなかった。多分これもすでに削除されたと思われる。

さて見つけたブログ・アーカイブから彼女のブログ記事の一部を引用させてもらう。

A well hydrated body works better and looks better. But while staying hydrated is important to your health, drinking water during meals actually slows our digestion. It’s even worse if the water is cold.     (Stop Drinking Water With Meals--Seriously [ブログ: Discovery Fit & Health : Sara Novak]より)

十分な水分補給は健康にもいいし美容にもいいですね。だた、水分補給が健康によいといっても、実際のところ、食事中に水を飲むと消化が遅れるのよ。しかも、冷たい水はもっと悪いわ。(訳:Web閑人)

 

The ancient science of Ayurveda says that drinking water during meals, specifically cold water, puts out our digestive fire so that our bodies don’t properly digest the foods we eat. As a result, it’s recommended that you avoid drinking water at least 30 minutes before and 30 minutes after your meal. If you must have a drink, sip on a room temperature beverage.      (Stop Drinking Water With Meals--Seriously [ブログ: Discovery Fit & Health : Sara Novak]より)

古代のアーユルヴェーダ科学でも言われていることなんだけど、食事中に水を飲むと、特に冷たい水ね、これは消化の火を消すの。だから、食べた物の消化がうまくいかなくなるの。そういうことだから、少なくても食事前の30分と食事後の30分間はお水飲むのはやめた方がいい。もし、必要に迫られて飲むんだったら、室温の飲み物をすするだけにしなさい。(訳:Web閑人)

これに対して、イエール大学医学部の医師スティーブン・ノベラ(Steven Novella)は、 “Do Cold Drinks Alter Digestion?”「冷たい飲み物が消化を変化させるてだって?」と題するブログ記事のなかで反論している。

The “science of Ayurveda?” I think she means the ancient superstition of Ayurveda. Calling something a science does not make it so. I get the sense that Novak has no idea what the definition of “science” is – it’s not any body of beliefs, it refers to the methods by which a body of knowledge is built.     (Steven Novella)

「アーユルヴェーダ科学」だって?それって彼女は古代のアーユルヴェーダの迷信のことを科学だって言ってるんだよね。科学、科学って、何でもそういえば科学になるってもんじゃないだろ。僕が思うに、ノヴァクは科学の定義について何も知らないと思うね。科学っていうのは何かの信念・信仰といったものじゃあないよ。科学っていうのは知識の体系を形作る方法のことだよね。(訳:Web閑人)

長くなるからこれ以上スティーブン・ノベラの記事は引用しないが、スティーブン・ノベラは医者として現代医学に基づき、「食事のときに水分をとってはいけない」という話がいかにデタラメであるかを説明してくれている(反論を詳しく知りたい方は直接スティーブン・ノベラ(Steven Novella)のブログをお読みください)。

また、アーユルヴェーダに関してWikipediaには、「ひとつの体系としてまとめられたのは、早くても紀元前5 - 6世紀と考えられている」とある。また、「トリ・ドーシャ(三体液, 三病素)といって、ヴァータ(風、運動エネルギー)、ピッタ(胆汁または熱変換エネルギー)、カパ(粘液または痰、結合エネルギー)という3要素を持っており、身体のすべての生理機能が支配されているとする説である」とも書かれている。「ピッタの増大・増悪は消化器系疾患、肝・胆・膵疾患を引き起こすと考えられている」のだそうだ。紀元前5 - 6世紀の考え方が「食事中に水を飲んではいけない」のもとになっているというのだから、イエール大学医学部の先生でなくても呆れますよね。

アーユルヴェーダではなく現代的医学的知識をもとにするならば、食事のときに水分をとることは全く問題がない。水を飲んでも胃酸や消化酵素は胃壁からさらに必要量分泌されるので薄まることを心配する必要はない。水を1リットルくらい飲んでも胃の中のpHはほとんど変わらない。そもそも酵素というものは水分があるところでないと働かない。水があることで酵素が食物全体に行き渡る。

食事中に水が飲みたいとか、お茶、コーヒーが飲みたいと思うのは当たり前のこと。必要だから体が要求する。運動をして汗をかいた後、風呂上がり、夏の暑いときにのどが渇くのは体が水分を必要とする生理的なシグナルだ。それと同様に食事中に水が欲しくなるのは必要としている生理的なシグナルだ

また別のブログものぞいてみよう。Hyperlaliaというブログ-学生さんのブログのようだが-にはこう書かれている。

I doubt the author actually did any research into the subject on digestive physiology because if she did she would know that bile acids should not normally be inside the stomach in any significant amount and that their presence there can cause significant irritation to the mucosa and over time cause a chemical gastropathy.  (Hyperlaliaブログ)

サラ・ノヴァクはこの消化の生理学的な問題について本当に調べたのだとは思わないよ。だって、彼女がきちんと調べたんだったら、正常な場合に胃の中に胆汁酸がかなりの量ふくまれていて、それが胃粘膜を刺激するとか、その刺激が続くと化学性の胃炎になるとか言うはずないもの。(訳:Web閑人)

その通りだ。胆汁酸は胆汁の主成分だ。胆汁は肝臓でつくられ胆嚢に貯められた後、脂肪分の吸収を助けるために十二指腸に分泌されるのだ。胃は十二指腸より上にあるから、病気でない限り胆汁が胃に入ることはない。

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それにしても、食事中に水、お茶、コーヒー、紅茶など一切飲まないというのは、一種の拷問のような気がする、特に子供にとっては。水を飲まさないことで、子供や老人が喉つまりして救急車のお世話にでもなったらどうするのだろうか?

デタラメな健康/美容情報には気を付けなくてはいけません、本当に。

 

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