真夏の夜の夢-夢野久作「キューピー」をイメージする、人形の夜の顔
2016/09/11
夏の暑い夜にビールがないときは怖いお話が一番です。なぜなら冷や汗がでて体温を下げてくれるからです。そしてなによりタダ。こ~んな美味しい話は他にありません。
といっても怖いお話をしてくれる人はいないので、自分で話でも書いてみようかと思いましたが、そこでハッと思い出したのが夢野久作。別に怪談作家ではないが、あやかしめいたおどろおどろしい話が多いですね。
そういえば彼のショートに「キューピー」というのがあったっけ、と気づく。
明るいときに見ると可愛い人形も夜の帳(とばり)が降りると、別の顔が顕(あらわ)れます。照明の消えた部屋に一人、カーテンのわずかな隙間(すきま)から差し込む弱々しい夜の光が、人形達の顔にかすかな陰翳(いんえい)を与え、昼間とは違う表情が顕れるのです。
それでは夢野久作の短編「キューピー」(青空文庫)を読みながら人形達の夜の顔を見てゆくことにいたしましょう。
「キューピー」 夢野久作 (青空文庫より)
アメリカ生まれのキューピーがいなくなったので、
おもちゃ箱の中は大変なさわぎがはじまりました。
日本のダルマさんが向う鉢巻で
タワシ細工の熊に乗っていの一番に飛び出す。
あとから独逸(ドイツ)生まれのブリキの兵隊が
木造りの自動車で駈け出す。
仏蘭西(フランス)生まれの道化人形は
英国生まれのねむり人形と一緒にそのあとから走り出す。
みんな出て行っておもちゃ箱は空っぽになりました。
ダルマさんが、敷居の処を通りかかった鼠に、
キューピーさんはどこへ行ったか知らないかと尋ねますと、
鼠はチューチューと笑いながら、
「それはきっと、この頃この家へ来た小さな三毛猫がおもちゃに持って行ったのだろう」
と言いました。
ソレッと言うので、縁側で日なたぼっこをしている三毛猫を捕まえて
ダルマさんが睨みつける。
兵隊さんが剣付き鉄砲を突きつけて、キューピーをどうしたかと聞くと、
三毛猫はビックリして顔を撫でて、
「イイエ、ニャンにも知りません。
私はお嬢さんの帯だの鞠だのはおもちゃにしましたが、
まだキューピーはおもちゃにしたことはありません。
おおかたそれは鼠さんが私をここから追い出すために
そんなわるい事をしたのでしょう」
と言いました。
皆は成る程と気がついて、
直ぐに天井裏へかけ上って方々を捜しますと、
隅っこの方でキーキーピイピイ泣く声が聞こえますので、
ソレッと言って馳せつけました。
みるとかわいそうに、
キューピーはお腹も何もピシャンコになって、
青い眼を泣き腫(は)らして寝ています。
みんなは大喜びで連れて帰って、
寄ってたかって介抱をして、
もとの通りにふくらましてやりました。
三毛猫はその後大きくなって、
家中の鼠を皆捕って殺してしまいました。
(終わり)
いかがでしたか?上の短編「キューピー」の全文は、青空文庫から引用させていただきました(青空文庫スタッフの皆様ありがとうございます)。イメージはブログ主が好き勝手に付けたものです(イメージはGIMPで作成したので、最後の「キューピー」さんのイメージの左側に期せずして「GIMP」のロゴが入りました)。
それではどうぞ皆様、涼しい夜をお過ごしください。
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